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名古屋高等裁判所 昭和39年(ネ)384号 判決

主文

一、原判決中主文第二項を除きその余の部分を左のとおり変更する。

二、被控訴人らは承継参加人らに対し別紙目録第一記載の土地および同第三、第四記載の建物を明渡せ。

三、承継参加人らのその余の請求を棄却する。

四、被控訴人らは控訴人に対し各連帯して昭和三四年七月九日より同年一二月末日までの間月額一二、三〇〇円、同三五年一月一日より同年一二月末日までの間月額金一四、八〇〇円、同三六年一月一日より同年一二月末までの間月額金一七、五〇〇円、同三七年一月一日より同年一二月六日までの間月額金二〇、九〇〇円の各割合による金員を支払え。

五、控訴人その余の請求を棄却する。

六、控訴人(附帯被控訴人=以下単に控訴人と呼ぶ)と被控訴人喜義(附帯控訴人=以下単に被控訴人喜義と呼ぶ)との間において、控訴人は別紙目録第二記載の土地が被控訴人喜義の所有であることを確認し、同第三記載の建物を収去して右土地を明渡し、かつ昭和三七年一二月六日より右明渡済に至るまで月額金三七、〇〇〇円の割合による金員を支払え。

七、被控訴人喜義のその余の請求を棄却する。

八、訴訟費用は第一、二審を通じ、本訴および反訴につき生じた分を十分し、その一を承継参加人の連帯負担とし、その四を控訴人の負担とし、その余を被控訴人らの連帯負担とし、補助参加につき生じた分はこれを十分してその七を補助参加人の負担とし、その余を被控訴人らの連帯負担とする。

九、この判決は第二項、第四項および第六項の建物収去土地明渡ならびに金銭支払を命じた部分に限り仮に執行することができる。

事実

承継参加人ら代理人は、主文第二項と同旨および「被控訴人らは承継参加人らに対し連帯して昭和三八年一一月六日より主文第一項記載の土地および建物明渡済に至るまで月額金一二四、四三五円の割合による金員を支払え。承継参加人らと被控訴人らとの間に生じた訴訟費用は被控訴人らの負担とする。」旨の判決ならびに仮執行の宣言を求め、控訴代理人は権利の一部を承継参加人らに譲渡した結果当審において請求の趣旨を訂正し「原判決中控訴人勝訴部分を除きその余を左の通り変更する。被控訴人らは控訴人に対し連帯して昭和三四年七月九日より同年一二月末日までの間月額金六〇、五二一円、同三五年一月一日より同年一二月末日までの間月額金八四、八四一円、同三六年一月一日より同三八年一一月五日までの間月額金一二四、四三五円の各割合による金員を支払え。」との判決を求め、被控訴人喜義の附帯控訴に対し「本件附帯控訴を却下または棄却する。」旨の判決を求め、被控訴人ら代理人は「原判決を左のとおり変更する。被控訴人らは承継参加人らに対し別紙目録第一記載の土地および同第四記載の建物を明渡せ。承継参加人らのその余の請求を棄却する。控訴人は被控訴人喜義に対し別紙目録第二記載の土地が被控訴人喜義の所有であることを確認し、同第三記載の建物を収去して右土地を明渡し、かつ昭和三四年七月七日より右明渡済に至るまで月額金二五八、九〇九円の割合による金員を支払え。訴訟費用中参加につき生じた分は各参加人らの負担とし、その余の部分は第一、二審とも控訴人の負担とする。」旨の判決ならびに第四項の建物収去土地明渡および金員支払の部分につき仮執行の宣言を求めた。

当事者双方(承継参加人および補助参加人を含む)の事実上の主張および立証関係は次に付加訂正するほか原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。

第一  控訴代理人の陳述

一、仮に被控訴人喜義が別紙目録第二記載の土地(以下単に目録第二の土地と呼ぶ。以下この例にならう。)を訴外森川勘一郎から買受けたものとしても、もと右土地の借地人である被控訴人みなは本件地上に目録第三の建物を建築所有し、昭和二四年四月一二日名古屋法務局一宮支局受付第九五八号をもって所有権保存登記をしているのであるから、右土地が被控訴人喜義の所有となっても、被控訴人みなは被控訴人喜義に対しその借地権を主張しうる。公売当時には、右土地の所有名義者森川勘一郎と被控訴人みなとの間に賃貸借(期限の定めのない)ありとし、建物自体としては無価値に等しい前記建物を最低公売価格金一五五万円として公売に付せられ、被控訴人らは借地権の付随する建物として買得する者のあることを予見しながら、敢えて該公売に異議を留めずして、その公売手続の完結を見たものである以上、落札人である控訴人に借地権が移転することを黙示的に承認したものというべきである。すくなくとも、右公売に何ら異議を留めずして、借地権付建物と信じ金一三五万円で買得した控訴人に対して、その建物の収去明渡を求める被控訴人喜義の反訴請求は権利の濫用として排斥さるべきである。

二、控訴人は本件土地建物を承継参加人らに譲渡し、昭和三八年一一月五日所轄名古屋法務局一宮支局受付第一二八二二号をもって所有権移転登記を了した。従つて控訴人は被控訴人らに対し、昭和三四年七月九日より同三八年一一月五日までの間の賃料相当の損害金の支払を求める。

第二  承継参加人ら代理人の陳述

一、(参加請求の原因)

(1)  控訴人と被控訴人らとの間の本件係争の目録第一の土地、第三および第四の建物を昭和三七年六月二五日承継参加人らが控訴人より買受け、原審が口頭弁論を終結した同年七月九日以後である昭和三八年一一月五日所轄名古屋法務局一宮支局受付第一二八二二号をもつて所有権移転登記を了し、控訴人の権利義務を承継した。

(2)  よつて右係争土地および建物の明渡ならびに右所有権移転登記の翌日である昭和三八年一一月六日以降右明渡済に至るまで月額金一二四、四三五円の割合による賃料相当の損害金の支払を求める。

二、(法定地上権について。)

本件のように建物のみが公売処分になつたとき、その建物の敷地に法定地上権が設定されないとすると、その買得者は安定した地位を獲得することができないため、公売は重大な障碍を蒙ることになる。そこで国税徴収法(昭和三四年法律第一四七号により改正、昭和三五年一月一日より施行)第一二七条は、土地および地上建物が滞納者の所有に属する場合公売によつてその所有者を異にするに至つたときは、建物について地上権を設定されたものとみなす旨規定し、同法附則第一二条第三項により右第一二七条は同法施行後において換価に付する建物について適用されることになつている。本件は右改正法施行前の公売事件であるから同趣旨の民法第三八八条の規定を類推適用すべきである。

三、目録第三の建物に関し、被控訴人喜義が控訴人を仮処分債務者として昭和三七年一二月二六日処分禁止の仮処分命令を得てこれを執行し登記簿への記載を経たことは認める。しかし本件係争土地および建物は前述のとおり昭和三七年六月二五日控訴人より承継参加人が買受けその代金を支払つたものであるから、同年一二月二六日の処分禁止仮処分の対象となり得ない。

第三  補助参加指定代理人の陳述

一、目録第二の土地に所在する建物が昭和三四年二月二四日滞納処分による差押えを受け、同年七月八日公売処分に付されたのであるが、当時目録第二の土地の所有権は被控訴人みなにあつたのであり、その後登記原因昭和二五年一〇月三一日売買として被控訴人喜義が取得登記を了したとしても、第三者に対する対抗力はその登記の日である昭和三四年一一月二八日からであり、それ以前に遡及すべきものではない。右の点からみても右第二の土地とその上に所在する建物はその建物につき差押があつた昭和三四年二月二四日においてはともに被控訴人みなの所有に属していたのであり、その土地につきなされた被控訴人喜義名義の登記は虚偽の登記と認められるものである。仮に被控訴人喜義が被控訴人みなの権利を譲り受けたとしても第三者に対抗するためにはその譲渡を受けた時期はすくなくともその所有権取得登記の申請当時すなわち昭和三四年一一月二八日であつたものというべきであるから前記建物について滞納処分による公売がなされた場合、それが敷地である目録第二の土地について法定地上権が成立することは明らかである。

二、仮に、昭和二五年一二月二二日森川勘一郎から被控訴人がみなが目録第二の土地を買受けた後、間もなく被控訴人喜義がこれを買受けたとしても、その取得について登記をしなかつたのであるから、第三者としては被控訴人喜義の所有を否認して、被控訴人みなにその土地の所有権が帰属しているものと認めるのが当然であり、一方控訴人は善意で右土地に所在する被控訴人みな所有の建物を公売によつて所有権を取得し、その旨の登記を経ているのであるから、その法定地上権をその土地についての未登記所有者と目される被控訴人喜義に対し主張しうるというべきである。

第四  被控訴人ら代理人の陳述

一、(承継参加人らの請求に対して)承継参加人らがその主張の日に控訴人より本件係争の土地および建物を買い受け、昭和三八年一一月五日その旨の所有権移転登記を了したことは認める。しかしながら被控訴人喜義は右建物のうち目録第三の建物に対し昭和三七年一二月二六日処分禁止の仮処分命令を得、その執行をなし登記簿への記載を経たのであるから、その後に所有権取得の登記をした承継参加人らは右所有権取得をもつて被控訴人喜義に対抗しえない。したがって被控訴人らは目録第三の建物については承継参加人らの明渡請求には応じ難い。なお被控訴人らは控訴人の仮執行決定に基く強制執行により昭和三七年一二月六日本件係争土地および建物を控訴人に明渡し、その後右土地建物を占有していないから、承継参加人らの損害金請求は失当である。

二、(控訴人の損害金請求に対して。)前記のように被控訴人らは昭和三七年一二月六日目録第一の土地および第三、第四の建物全部を明渡した。そしてその後は右土地建物を占有していない。したがって同日以降損害は発生していない。

三、(法定地上権の抗弁に対して。)仮に目録第二の土地が昭和三四年七月七日の公売当時被控訴人みなの所有に属していたとしても、右土地について法定地上権が設定される道理はない。すなわち民法第三八八条は同一人の所有に属する土地建物のいずれかに抵当権の設定があつたとき、競売により土地と建物の所有者が異なるに至つた場合にその土地につき地上権を設定したものとみなす旨の特別規定であり、土地建物のいずれにも抵当権の設定がない場合についてまで右民法第三八八条の類推乃至拡張により地上権の設定があつたものとみなすべきではない。なお昭和三四年法律第一四七号国税徴収法第一二七条の規定は同法施行前である昭和三四年七月八日に公売の完了した本件に適用されないことは明らかである。

第五  立証関係(省略)

理由

第一  当裁判所は当審における証拠調の結果を参酌して更に審究した結果、被控訴人らは控訴人に対し目録第一の土地および第三、第四の建物を明渡すべき義務があり、控訴人は被控訴人喜義に対し目録第三の建物を収去して目録第二の土地を明渡すべき義務があり、被控訴人みなの控訴人に対する目録第四の(6)、(7)の建物(原判決では目録第三の(6)、(7)記載の建物)についての所有権確認ならびに新築登記の抹消登記手続を求める反訴請求、被控訴人喜義の控訴人に対する目録第四の(5)のB、(1)の建物(原判決では目録第三の(5)のB、(1)の建物)の収去を求める反訴請求はいずれも失当であるから棄却すべきものと判断する。その理由は次に付加するほかは原判決事実摘示一項ないし五項と同一であるからこれを引用する。ただし原判決一九枚目裏三行目の法定地上権(民法第三四四条)とあるを法定地上権(民法第三八八条)と訂正する。

一、(承継参加人らの明渡請求について。)承継参加人らが昭和三七年六月二五日控訴人より本件係争の目録第一の土地および第三、第四の建物を買受け、原審の口頭弁論終結後である昭和三八年一一月五日所轄名古屋法務局一宮支局受付第一二八二二号をもって、所有権移転登記を了したこと、被控訴人喜義が控訴人を仮処分債務者として目録第二の土地上にある目録第三の建物に関し、昭和三七年一二月二六日処分禁止の仮処分命令を得、これを執行して登記簿への記載を経たことについては当事者間に争がない。

承継参加人らは前記譲受けにより目録第一の土地および第三、第四の建物につき控訴人の権利義務を承継したものというべきである。

被控訴人らは、目録第三の建物に関し、前記仮処分命令執行後に所有権取得の登記をしたにすぎない承継参加人らは右所有権取得をもつて被控訴人喜義に対抗し得ないから、右建物の明渡請求は失当であると主張する。よつてこの点を検討する。右請求は建物の所有権を取得した承継参加人らがその所有権に基いて右建物を不法に占拠する被控訴人らに対しその明渡を求めるものであつて、このような場合不法占拠者である被控訴人らは承継参加人らの登記欠缺を主張し得ない関係にあることは明らかである。けだし、不法占拠者である被控訴人らは右建物について承継参加人らと物的支配を争うという関係に立たず、したがつて承継参加人らとの間に対抗問題が存在しないからである。そして被控訴人らの主張する前記処分禁止の仮処分は土地所有者である被控訴人喜義が土地明渡請求権を保全するためその地上建物の所有者である控訴人を仮処分債務者として得たものであるから、たとえ控訴人が地上建物を第三者に譲渡しても、被控訴人喜義は仮処分の効力により依然として控訴人を被告として建物収去土地明渡を求めることができる。しかし右仮処分の効力はその範囲に止まり、仮処分命令の前後を問わず所有権を取得した承継参加人らが建物の所有権に基き不法占拠者である被控訴人らに対しその明渡請求をなすことを妨げるべき効力を有しないというべきである。そうでないと、不法占拠者が自己の明渡義務の相手方を確保するため所有権者の処分権を制約する仮処分命令を得るという奇妙な結果を生じ、これは到底法の許容するところでないからである。されば、被控訴人らは承継参加人に対し目録第一の土地および第三、第四の建物を明渡すべき義務がある。

二、(被控訴人喜義の反訴請求に対する控訴人らの抗弁について)

(一)、借地権譲渡について承諾があつた旨の抗弁の前提をなす、目録第三の建物の所有者である被控訴人みなが目録第二の土地について賃借権ないしは地上権を有していたということは、当審証人古川好春、同杉田静男、同内藤彦一、同山田芳郎、同安井一夫の各証言をもつてしてもこれを認めるに足らず、その他右事実を認めるべき証拠はない。したがつて、控訴人が建物自体無価値なものを公売当時土地所有名義者森川勘一郎と被控訴人みなとの間に借地権があると信じ落札したとしても、それは落札者自身について錯誤の問題が生じるに留まり、借地権のないものに借地権の生ずるいわれはない。したがつて借地権の譲渡を黙示的に承認したという主張は採用できない。なおまた右落札人に対し被控訴人喜義が所有権に基き建物収去土地明渡を求めることは当然の権利行使というべきであつて、権利の濫用にあたらない。

(二)  補助参加人は、土地とその地上建物とが滞納者の所有に属する場合、公売によつてその所有者を異にするに至つたとき建物について法定地上権が設定されると主張するので、この点を検討する。国税徴収法(昭和三四年法律第一四七号により改正、昭和三五年一月一日より施行)第一二七条は右の場合建物について地上権を設定されたものとみなす旨規定している。しかし同法附則第一二条第三項により同法第一二七条は同法施行後において換価に付する建物について適用されることになつている。ところで本件は右改正法施行前に手続の完了した公売事件であるから右規定の適用はない。しからば右のような場合に民法第三八八条の規定を類推適用して法定地上権を認めるべきであろうか。民法第三八八条が土地およびその上に存する建物が同一の所有に属する場合において、その土地または建物のみを抵当となしたる場合、抵当権者は競売の場合につき地上権を設定したるものとみなす旨規定しているが、これは土地または地上建物のいずれか一方に抵当権設定のある場合の特別規定であり、抵当権のない場合についてまで右規定の類推ないし拡張により地上権の設定があつたものとみなすべきではない。(最高裁判所昭和三五年(オ)第八三号、昭和三八年六月二五日第三小法廷判決参照)殊に本件においては、土地とその地上建物とが被控訴人みなの所有に属していたと認めなければならないのであるから前記法定地上権の抗弁が理由のないことは明白である。

第二  損害金の請求について判断する。

一、(承継参加人の損害金請求)承継参加人らは被控訴人らに対し目録第一の土地および第三、第四の建物を被控訴人らが占有することによる昭和三八年一一月六日以降の賃料相当の損害金の支払を求めている。しかしながら被控訴人らが昭和三七年一二月六日控訴人より仮執行決定に基く強制執行を受け、右不動産全部を明渡したことについては当事者間に争がない。したがつて右明渡後は被控訴人らの不法占拠は存在しないのであるから、損害賠償の義務がないことは明白である。したがつて右明渡後である昭和三八年一一月六日以降の損害金の支払を求める承継参加人らの請求は失当であつて棄却すべきである。

二、(控訴人の損害金請求)被控訴人らが共同して控訴人所有の目録第一の土地と第三、第四の建物につき、控訴人がその所有権を取得して以後正当な権限なくして占有いたことは前認定(引用の原判決理由四項)のとおりであり、被控訴人らが占有を止めたのが前項で認定のとおり昭和三七年一二月六日である。したがって被控訴人らは控訴人に対し昭和三四年七月九日より昭和三七年一二月六日までの間控訴人が蒙つた損害金を連帯して支払うべき義務がある。そこで目録第一の土地、および第三、第四の建物とを包括して賃貸した場合の賃料額が控訴人の蒙つた損害額に相当すると解することができる。鑑定人早川友吉の鑑定の結果によれば、昭和三四年七月九日より同年一二月末日までの間月額金一二、三〇〇円、同三五年一月一日より同年一二月末日までの間月額金一四、八〇〇円、同三六年一月一日より同年一二月末日までの間月額金一七、五〇〇円、同三七年一月一日より同年一二月六日までの間の月額金二〇、九〇〇円の各割合による金額であると認めることができ、これに反する鑑定人松井幸次郎の鑑定の結果は採用しない。なお控訴人は仮執行決定に基く強制執行により右不動産の明渡を得た翌日である昭和三七年一二月七日より承継参加人らに所有権を譲渡した昭和三八年一一月五日までの間の損害金の支払を求めているが、仮執行決定に基く強制執行により、右不動産の明渡がなされた後は、被控訴人らの占有は止んでいるのであるから、被控訴人らに不法占拠による損害賠償の義務がないことは明らかである。されば控訴人の損害金請求は主文第四項記載の範囲において正当として認容すべく、その余の部分は失当として棄却すべきである。

三、(被控訴人喜義の損害金請求=附帯控訴)

(一)  控訴人は被控訴人の附帯控訴は不適法であるから却下を求めるというのであるが、職権をもつて調査するに、被控訴人喜義の本件附帯控訴には違法の点を発見することができない。したがって控訴人の右申立は理由がない。

(二)  控訴人が目録第三の建物を所有して被控訴人喜義所有の目録第二の土地を占有していること、および控訴人に右建物を収去してその敷地を明渡すべき義務のあることは前認定のとおりである。しかし仮執行決定に基く強制執行により被控訴人らから右建物の明渡を受けるまでは、控訴人の収去義務を履行し得ない状態に置かれていたのであり、反面被控訴人らは収去を求めている地上建物を占有使用することによりその敷地である目録第二の土地を使用収益していたのであるから、その間被控訴人喜義は何らの損害を受けていなかつたものというべきである。他に右認定を妨げるような証拠は存在しない。しかし仮執行決定に基く強制執行により建物の明渡を受けた以後は、控訴人は前記建物を所有することにより前記土地を不法に占有するものといえるから、右建物明渡の翌日より右建物を収去して土地明渡済に至るまでの間賃料相当の損害金を支払うべき義務がある。その額は、鑑定人早川友吉の鑑定の結果によれば月額金三七、〇〇〇円の割合による金員と認められ、これに反する鑑定人松井幸次郎の鑑定の結果は採用しない。したがつて被控訴人喜義の損害金請求は主文第六項記載の範囲において正当として認容すべく、その余の部分は失当として棄却すべきである。

第三  以上認定のとおり、承継参加人らの請求のうち建物および土地明渡を求める部分を認容し、その余の請求を棄却し、控訴人の本件控訴および被控訴人喜義の附帯控訴は各一部理由ありと認めて原判決中主文第二項を除きその余の部分を変更し、訴訟費用について民事訴訟法第九六条、第九五条、第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行の宣言について同法第一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

別紙

目録

第一

一宮市伝馬通一丁目四番の一

一、宅地      六坪

同所一丁目二番

一、宅地    四九坪  四勺

同所一丁目二番の二

一、宅地    二〇坪  七勺

以上は別紙図面(二)の土地

第二

同所一丁目二番の四

一、宅地   四一坪六合三勺

同所一丁目二番の八

一、宅地      一合一勺

同所一丁目四番

一、宅地    七坪

以上は別紙図面(イ)の土地

第三

同所一丁目二番地の四、四番地の二、二番地の五

一、家屋番号第一三番

木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建店舗

床面積    一二坪六合

(別紙図面(5)のA)

木造瓦葺平家建店舗兼居宅

床面積   五坪四合六勺

(別紙図面(2))

木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建店舗

床面積    三坪六合四勺

(別紙図面(3))

木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建店舗

床面積    一〇坪六合六勺

(別紙図面(4))

第四

同所一丁目二番地、四番地の一、二番地の二

一、家屋番号第一三番の二

木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建店舗

床面積    二〇坪七合八勺

(別紙図面(5)のB)

木造瓦葺平家建店舗

床面積    二〇坪四合

(別紙図面(6))

木造亜鉛メツキ鋼板平家建居宅

床面積     三坪

(別紙図面(1))

木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建便所

床面積      五合

(別紙図面(7))

(第一審添付図面と同一に付省略)

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